2012年5月13日日曜日

森元予想(4)


2006年の年末にまた奈良に来ていたRieck氏はこのことに気がついて結局森元予想には反例が存在することが明らかになるわけです。因みにここでポイントになったのでは森元予想の反例を作るためには無限の操作を要する増大度よりももっと弱く、「十分大きな数に対して増大度もどきが1/2より大きな結び目を作ればよい」ということでした。

ところでこのような例の構成にあたって使われた概念として擬アノソフ写像と呼ばれるものがあります。

擬アノソフ写像について紹介したいと思います。(ここからの話は極端に専門的になります)そのためにまずアノソフ写像の説明から始めましょう。2次元ユークリッド空間を整数格子でわった空間は2次元トーラス ですが、このユークリッド空間を2次元線形空間とみなしてその上の線形写像を考えるとそれは整数を成分とする2次の行列で表示されます。このときこの行列の行列式の値が1でその固有値が二つとも正であるとすると、この固有空間に対応するトーラス上の直線はトーラスに稠密に巻きつく1次元空間に射影されます。このうち1よりも大きい固有値に対応する1次元空間はこの写像の安定葉層構造、1よりも小さい固有値に対応する1次元空間は不安定葉層構造と呼ばれます。この安定葉層構造が1よりも大きな固有値の固有空間に対応していることから トーラス上の任意の本質的な閉曲線をこの写像で繰り返し写してゆくとその像は次第に安定葉層構造に似てくることがわかります。
さて向き付けられた閉曲面はトーラスのほかにこのような種数が2以上のものが存在しますが、1970年代Thurstonはこのような曲面にもアノソフ写像と同様な性質をもつ写像が存在することを示しました。この写像は擬アノソフ写像と呼ばれており現在に至るまで様々な分野の要として現れる重要な概念になっています。先ほど紹介しました、例の構成はこの擬アノソフ写像の理論を使ってなされます。