2014年1月30日木曜日

数学の研究と数学者(3)


学問の世界で間違った結果を発表するのは気まずいも
のです。特に、数学のように純粋に理論的な世界では、
それは「自分の能力不足の証拠」を公開している気分
になるものです。私達はこの問題点を修復しようと必
死になりました。ただ、経験的に言えることですが、
このような冷静さを失った精神状態で仕事をしても、
有益な結果が出ることはあまり無いようです。この時
も、しばらくもがいた後に結局、方針を変更して議論
の設定を根本的に変更することにしました。このよう
に書くとあっさりと考えを変えたように聞こえますが、
この決断をするのはかなり難しかったように記憶して
います。実際のところ私自身は「私達の論文はQ先生
達の論文とほとんど同じ内容になってしまう」と感じ
ていましたが・・・とにかく私達はQ先生の論文を参
考に自分たちの手法を書き直す作業に入りました。

ところが、実際に作業を始めてみると、それまでの間
違った証明の考え方も含めて、研究に関連して調べた
他の論文の結果などがきれいに一つの証明に収束して
いったのです。早速論文をQ先生、Zさんにお送りしま
したところ、今度はZさんから「すばらしい」という
返事が届きました。

まとまった論文の結果は依然としてQ先生の論文より少
し弱いものでしたが、自分たちが到達した議論につい
ては、たとえsecond hand であっても公表する価値が
有るかもしれない、・・・そんな考えも一方で浮かん
できました。


2014年1月25日土曜日

数学の研究と数学者(2)


自分が心血注いだ研究の成果が一瞬のうちに価値を失う、
という事態は、初めてのことではありませんが、何度経験
しても嫌なものです。ただ、「私達が半年にわたって行っ
てきた研究ももうおしまい」、といった気持ちがあった一
方、Q先生達の論文をよく吟味したところ、その中で参照
されているある論文の結果を使えば、我々の結果も彼らの
ものと同じ程度まで改良できることがわかりました(これ
は私の指摘ではなく、共同研究者の方の指摘であることは、
特に注意しておきますね)。当時私の中では、論文として
発表するかどうか、ということは別として、「自分達で考
えた手法の可能性を見たい」といったような気持ちがあっ
たように思います。おそらく共同研究者の二人も同じよう
な気持ちではなかったかと想像していますが、とにかくそ
の結果を使った論文の改訂版を作成、再度arXiveにアップ
ロードしQ先生、Zさんにもお送りしました。ところが、
間髪入れずZさんから再度証明の不備を指摘するメール
が届いたのです。

2014年1月23日木曜日

数学の研究と数学者

2012年から2013年にかけて、二人の数学者と共同で、ある
数学の問題に取り組んでいました。今回はこの仕事の過程で経
験したことをお話してみようと思います(数学の内容は全く関
係ありませんのでご安心ください)。

2012年の10月頃のことですが当時半年ほどかけて行っていた
共同研究の結果が論文にまとまり、それをarXiveにアップロー
ドしました。(arXiveというのは数学等の研究結果を公開する
ためのウェブサイトで、現在では最新の研究を知るための重要
な情報源になっています。)同時に、この方面の研究者である
中国のQ先生にもeメールで論文をお送りしました。するとQ先生
から直ちに彼の論文が送られて来たのですが、その中の主結果
は私達の結果を含むものでした。更に追い打ちをかけるように、
Q先生の論文の共著者の一人のZさんからは、我々
の証明の不備を指摘する連絡が届いたのです。その内容を検討
したところ確かにその指摘は正しいものであることが明らかに
なりました。

時として、学問的な成果の先陣争いは非情なものがあります。
いくら同じ結果を出していても、たった一日その発表が遅れた
ために、その結果は最初に公開した人のものとして参照される
というのは十分にありえることです。ましてや我々の場合は、
その証明に不備があったのですから、この論文は、もはや生命
を絶たれた、と言っても言い過ぎではなかったと思います。