2013年8月31日土曜日

Heegaard分解の距離について(講演台本)

この度、久しぶりに、国際研究集会で講演する機会をいただきました。
いま、講演の原稿をまとめているところですが、全体の3部のうちの
前半の2部は多くの方に興味を持っていただけると思いましたので、
ここに公開させていただきます。

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My talk consists of three parts. The first part is a background 
of the theme, and it treats two topics, one is delta-hyperbolic 
space and the other is curve compex.  
The second is about Hempel distance of Heegaard splitting 
including the definition of Hempel distance. We will give the 
definition of Heegaard splitting of 3-manifold, and see how 
the theory of delta-hyperbolic space is applied to the theory 
of distance of Heegaard splitting by adopting a work of 
Abrams-Schleimer.  The last part is a quick explanation on the 
main result.

私の講演は三部からから構成されています。第一部は今回のテーマの
歴史的な背景について述べており、二つの話題、具体的にはδ双極空
間と曲線複体の紹介をします。第二部ではδ双極空間が三次元の
Heegaard 分解の距離の理論に適用されるのか、Abrams-Schleimer
の論文を例に紹介することにします。そして第三部で今回の講演の主
結果について簡単に紹介します。

In early 1980’s Cannon, Gromov, and Rips independently 
introduced definitions of the phenomenon of a metric space 
to be hyperbolic.

1980年台はじめにCannon, Gromov, and Ripsは独立に(そして
ほぼ同時に)距離空間が双極的である、という概念を与えました。
これらはそれぞれ違ったモチベーションに基づくものであり、一見
したところ違ったもののように見えるにもかかわらず結果的には同
値であることが明らかになります。

Particularly Gromov’s definition is based on the idea that a 
natural geometric invariant of a group is provided by considering 
(metrically) the Cayley graph of a group up to quasi-isometry. 
This created a new branch of geometric group theory: the study 
of large scale geometric invariants.

Gromovはこの時に「群の自然な幾何的不変量はその群のCayle
yグラフのquasi-isometry 類を考察することによって得られる」という
アイデアを提案し、これが契機となって幾何的群論における新しい
研究分野、いわば large scale の幾何的不変量とでもいうべきもの、
が創生されたのです。

Mikhael Gromov, Hyperbolic groups, from: Essays in group theory,
Math. Sci. Res. Inst. Publ 8, Springer, New York (1987) 75--263

Throughout this paper we will have in mind Rips’ thin triangle 
characterization of hyperbolicity, as defined below.

A metric space (X, d_X) is called a geodesic metric space, if for 
each a,b X there exists a geodesic segment, which we denote 
[a,b] whose length is equal to dX (a, b). The geodesic segment 
need not be unique.

Definition (δ-hyperbolic) A geodesic metric space X is called 
δ-hyperbolic if there exists a constant δ so that for each triple 
a, b, c X and each choice of geodesics [a, b], [b, c], and [a, c] 
one has that [a, b] is contained in a δ-neighborhood of the union 
of [a, c] and [b, c].

ではRipsによるthin triangle の概念を用いたδ双極空間の定義を紹介
することにします。
距離空間 (X, d_X) 内の任意の2 a,b X に対してそれを結ぶ測地線
(これを[a,b]と書くことにします)が存在するとき(X, d_X)geodesic 
metric spaceである、と呼ばれます。

定義(δ双極空間)正定数δに対して、geodesic metric space (X, d_X)
がδ双極空間であるとは次の条件が成り立つことである。

任意の三点a, b, c Xとそれらの対を結ぶ任意のgeodesics [a, b], [b, c], 
[a, c]に対して次が成り立つ。
                [a, b] [a, c] [b, c]のδ-近傍に含まれる。(次図)



2013年8月25日日曜日

ポアンカレ予想前夜(6)

いま突然三次元空間という言葉がでてきましたがこれについて確認
しておきましょう.さきほどその各点の近くが2次元的な広がりを持
つ空間のことを2次元空間または曲面と呼んでいましたが,同様に各
点の近くが3次元的な広がりを持つ空間のことを三次元空間,または
三次元多様体と呼ぶことにします.(三次元多様体というのは本来は
もっと色々技術的な条件がつくのですがここではそのような細かい条
件にはこだわらないことにします.)

さて最も簡単な三次元多様体として三次元球面と呼ばれる空間をあげ
ることができます.これはこのような球面の三次元版とでも呼ぶべきも
のです.三次元球面を一度に思い浮かべることは難しいのですが次のよ
うに考えると分かりやすいでしょう.まず三次元球面を思い浮かべる
ための予行として二次元球面について考えることにしましょう.二次
元の球面はこのように北半球と南半球の2つの部分に分けることがで
きます.このそれぞれの半球はゴムのような柔らかい材質でできてい
ると考えるとこのように平面に押し付けることができます.つまり球
面というのはこのような円板を二つ持ってきてそのふちを貼りあわせ
ることによってできます.ところでいまふちを「貼りあわせる」と言
いましたが,先ほどのトーラスのときと同じように,これはそれぞれ
の円板の縁の対応する点が「つながっている」と考えれば見やすいで
しょう.この事実を参考に三次元球面を連想してみましょう.まずこの
円板に対応する対象物としてボールを考えます.そしてこのようなボー
ルを二つ持ってきてこれらの表面を貼り合わせるつまりこれらの表面
の対応する点がつながっていると考えることにより得られる三次元多
様体が三次元球面なのです.

さて三次元球面以外にどのような三次元多様体が存在するでしょうか.
例えば先ほどのトーラスの構成法を三次元に拡張することを考えてみ
ましょう.この場合正方形の代わりにこのような立方体を考えること
になります.この立法体の相対する辺をつなげてやることにより三次
元多様体が得られます.このような三次元多様体は三次元トーラスと
呼ばれています.

ポアンカレはこのような与えられた三次元多様体が,異なるものであ
るかどうかをどうやって示すのか,と言う問題を取り扱っています.
第2の論文の中でホモロジー群と呼ばれる概念を導入してそのような
問題に対する答えを与えています.例えばこのホモロジー群を使うと
三次元球面と三次元トーラスは異なる三次元多様体であることを示す
ことができます.では逆に2つの三次元多様体が与えられたときにそ
のホモロジー群が等しければ,その多様体は同じなのか,という問題
が考えられますが,これに関してはポアンカレは2番目の補遺で「ホ
モロジー群が三次元球面と同じであればその多様体は三次元球面であ
る」と主張しました.しかしながら彼自身がこれが間違いであること
に気がつき五番目の補遺の中で実際にホモロジー群が三次元球面と同
じ三次元多様体で三次元球面と異なるものを構成しています.そこでこ
の論文の最後でポアンカレは次のような疑問(問題)を提出しました.

問題
いま三次元多様体 M に対して、その中の任意の閉曲線が連続的に一
点に縮むとする。この時 M は三次元球面に同相になるか。

これがいわゆる、ポアンカレ予想と呼ばれる問題です。

2013年8月9日金曜日

ポアンカレ予想前夜(5)

ではこの種数2の曲面ではどうでしょうか?クラインとポアンカレが扱った
問題の本質はまさしくこの疑問に関係しています.彼らの仕事の基本となる
哲学を一言で言うならばこのような種数2の曲面(そして種数3以上のすべて
の曲面)の上にも,その上のすべての点の近くが同じように見える見方が存在
するということです.ただしこの近くの様子は球面のものとも,トーラスの
ものとも異なります.現代的な言葉では球面の上に入るきれいな形は「球面
的(spherical)」と呼ばれ,トーラスの上に入るきれいな形は「ユークリッド
的(Euclidean)」または「平坦(flat)」とよばれています.これにたいして
種数が2以上の曲面にはいるきれいな形は「双曲的」と呼ばれていて,この
ような馬の鞍のような形をしています.

さて今御紹介したのはポアンカレのごく若い頃の仕事ですが,彼はその後,
数学、物理学および哲学の多くの面によって先進的な貢献をしました.この
ように様々な分野で貢献できる科学者は現在では生まれることは無いだろう
という意見もあり,彼はのことを「最後の万能数学者」と呼ぶ人もいます.
さてこのような彼の多方面にわたる貢献の1つに位相幾何学に関するものが
あります.彼は1895年「Analysis situs (位置解析)」と題する論文を
発表します.この121ページに及ぶこの長大な論文の中でポアンカレは
現代的な位相幾何学(トポロジー)の基礎となる「同相写像」「ホモロジー
群」「基本群」「ベッチ数」等の様々な概念を導入しています.さらに
ポアンカレはこの論文を補う形で位置解析に関する5編の論文「補遺
(1899年),第2の補遺(1900),第3の補遺(1902),第4の補遺
(1902),第5の補遺(1904)」を発表しています.さてこの第2の
補遺の中でポアンカレは「ねじれ係数」と呼ばれる量を導入して三次元
空間の研究に応用しています.