2012年12月29日土曜日

読書感想文集前書き


昨年度の本校の読書感想文集の前書きに寄せた文章です。
もう一年経ったのでブログで公開させていただきます。

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永く付き合える本

私は小中高を通して国語が苦手でした。「これではいけない」と、いろいろな
本を読んで国語力をつけよう、と努力はしたのですが、こういう不純な動機で
はやはり身につくことはあまり無かったようです。ただ、そんな乏しい読書体
験でも何とはなく、後々まで記憶に残る本はあるようで、特に印象に残ったの
は中島敦の「名人伝」という小品です。これは天下一の弓の名人になろうとい
う志を持った男の話です。修行を重ね、ついには師匠と互角の腕になった男は、
師匠から

「自分たちの技など、子どものあそびに等しい、と言うほどの弓の名人が深い
山の中にいる」

と聞いて居ても立ってもいられず、その名人に会いに行きます。そこで男は弓
の真髄を見せつけられ、改めてこの名人の下で修業を重ねます。やがて、修行
を終えて街に帰った男は、周りの期待にもかかわらず、いつまで経ってもその
技を見せようとはしません。それどころか・・・(結論が気になる方は、ぜひ
ご覧になってくだい。中島敦の作品は現在著作権が切れており、インターネッ
ト上の「青空文庫」等にアップロードされていますので、すぐに見ることが出
来ます。)

このお話には、はっきりとした教訓があるとか、何かの役に立つ情報がある、
ということは全くないのですが、何故か今でも時々、突然気にかかって、何十
年も前に購入した文庫本を読み返しています。不思議なことに読み返すたびに
何か新しい発見があり、うれしい気持ちにしてくれます。なお、この作品の中
でも私が特に気に入っている部分は、初めて主人公の前に初め表した名人の姿
を描写した部分です。その部分を少しだけ紹介しますね:

気負い立つ紀昌を迎えたのは、羊のような柔和な目をした、しかし酷くよぼよぼの爺さんである。年齢は百歳をも超えていよう。腰の曲っているせいもあって、白髯は歩く時も地に曳きずっている。

・・・どうです、「いいなあ」と思いませんか。

人生で「永く付き合える本」というのは、やはり良いものだ、と思いますが、このような本には、皆さんのような若い時にしか出会えないように感じています。皆さんも、それぞれ「永く付き合える本」にめぐり合えれば良いな、と思います。