2020年1月5日日曜日

サピエンス全史的視点からみたSociety 5.0の意義について(4)


自由意志への疑問と新しいカースト制度(ホモ・デウスの誕生)

これに関し連して最近の脳科学の研究では人間の自由意志の存在を否定するような研究の報告が相次いでいます.1983年にカリフォルニア大学サンフランシスコ校のリベット博士は被験者の前に画面の中を時計の針のようにぐるぐる回る点を見せて好きなタイミングで手を動かしてもらい,その時の

(1)指を動かそうと思った時刻
(2)脳で運動の指令が発生した時刻
(3)実際に指が動いた時刻

の測定を行いました.その結果それぞれの事象が起きた順番は

(2)(指を動かす信号が出る)→
(1)(指を動かそうと考える)→
(3)(実際に指が動く)

となっていたのです.常識的に考えれば,事象は(1)→(2)→(3)の順に起きるはずなのに,この結果はどのように理解すればよいのでしょうか.一つの可能性は「人間は自由意志など持っておらず,その行動はDNAに刻み込まれたアルゴリズムによって動いており,人間が自分の意志と考えているものは,その動きに対して後付で物語を作っているに過ぎない」という可能性です.人間の自由意志の存在についてはまだ結論は出ていませんが,上記の仮設を支持するような事実はその後も次々と発見されています.(*)

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(*)”「つぎはぎだらけの脳と心」295頁 脳の「物語作り」は止められない” ではてんかんの発作を抑えるために右脳と左脳の接続神経(脳梁)を切断した脳(分離脳)を持つ患者を使った実験が紹介されています.このような患者に向かって右脳にだけ聞こえるように「歩きなさい」というと患者は言われた通りに歩き出すのですが,そこで左脳に「あなたは何をしているのですか」と聞くと(なお,左脳は言語能力を司っています)患者は「喉が渇いたので,飲み物を取りに行こうとしているのです」と言ったような,話をその場で作り出したのです.このように左脳は本人の意志とは関係なくその場で,物語を作り出す,ということは様々な実験で確認されています.
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また電磁波などを用いて脳のシナプスに積極的に電気を流し,うつ病な治療などに役立てようという研究もなされています.うつ病の患者の脳に電極を埋め込み鬱病の症状が出そうななったら,電気的な刺激でうつ状態を抑える物質を出させて,症状を軽減するというものです.効果の方ははっきりしない面もありまだ実験段階ですが,著しい効果の出る人もいるということです,この効果のある人にとって自分自身の自由意志に従ってうつ患者として暮らすことと,外部からの作用に助けられて元気に暮らすことのどちらが幸せなのでしょうか.

また最近自分のバイオメトリクスデータを集め、アルゴリズムに分析させることで自己認識する動きが出てきています.
女優アンジェリーナ・ジョリーは遺伝子検査により乳がんになる確率が87%あると言う診断を受け乳房の切除、卵巣と卵管の早期切除を受けました.彼女は自分のように病気が出る前に予防治療を受ける人がたくさん出てきてほしいとこの事実を公開しました.
日本でもジョリーのようにまだ症状が出ていないにも関わらず,癌にかかる可能性があるからという理由で手術を受ける人が出てきているそうです(2019年12月3日読売新聞の調査によると580人ほどの実績があるそうです.なお,このような手術は2020年4月から保険適用になるとのことです

結局私達のモラルの拠り所となる人間至上主義というのは極めてあやふやな根拠しか持っていない,と言えるのではないか?それならいっそのこと,データとそれを処理するアルゴリズムにあらゆる決定を任せてしまったほうが,良い結果が得られるのではないか,という考えが出てきても不思議ではありません.それは,極小数の人間が制作したアルゴリズムに従って殆どの人々(ホモ・サピエンス)が動かされるという世界を意味します.やがてアルゴリズムはやがてあらゆる決定に関わることができるようになるでしょう.そしてこのアルゴリズムを制作する人たちは自分たちのことをホモ・サピエンスとは違った神(デウス)としての特性を持った人類(ホモ・デウス)とみなすようになるだろう,と述べています.(*)


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(*)ただし,ハラリはあくまでもこれは「歴史的な予測であり,絶対的な予言ではない」,「この考察により私達の選択が変わり,その結果,予測が外れたなら本望である」と述べています.
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