2023年3月10日金曜日

しなやかなに課題を解決する力

 (以下は本校の育友会の発行している冊子に昨年(2022年)寄稿した文章を若干改変したものです。

今年に入ってから3年月組の生徒たちが、校庭の隅で何やら建築作業のようなことをしていたのですが3月には高さ1.4メートルほどの縄文時代の竪穴式住居のレプリカが出来上がっていました。この仕掛け人は清水先生であるとの情報がありましたので直接お話をお聞きしましたところ、昨年の12月頃から縄文時代をしごと学習のテーマとしていて、子供たちは勾玉を作る体験を紹介したり、貫頭衣を作ったり、縄文時代に行われていたアンギン編みと呼ばれる布を麻の糸で編んだりとさまざまな学習が行われ、そこから展開した成果物の一つが右記の竪穴式住居とのことでした。
ところで岸田首相は自身の看板政策の一つとして「新しい資本主義」を掲げています。巷間では、トマ・ピケティの「21世紀の資本」や斎藤幸平氏の「人新世の「資本論」」がベストセラーとなるなど、「資本主義」という今の経済の基本システムを修正または変更していこう、という世界的な流れがあります。さてこれに関連して強調しておきたいことが一つあります。それはこのような社会構造のあり方に関する議論はこれまでも何度もあったのですが、昨年(2021年)「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書」で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする脱炭素社会の実現を目指す」という目標が設定されました。つまり2050年という締め切りのはっきりとした対応が同時進行で求められている、という意味で現在の状況はこれまでのものよりより複雑なものとなっている、ということです。ただ経済学のことを何も知らない私が偉そうに言う資格はないことは予めお断りしておきますが、ピケティや斎藤氏の問題提起には説得力はあるもののそれを実現する政策に落とし込む方法は?というと「一部の人に偏っている富を累進課税などの制度を利用して強制的に徴収しそれを経済的な弱者に再分配する」等、トップダウンによるもので、率直に申し上げて実行にあたっては色々と困難があるように見えます。一方で、ですがこれらの問題に関連して安宅和人氏は「シン・ニホン」の中で「先進的なテクノロジーを積極的に取り入れながら自然と人間が共に豊かに生きることができる未来像」を描き・実現していく「風の谷」(この名称はアニメ「風の谷のナウシカ」に由来します)というプロジェクトを提案されています。またこれとは別のものとして、日本に豊富にある森林資源をエネルギー源として活用し生活の利便性を損なうことなく、自然災害などに対してロバストな生活の基盤を構築し、さらにはこれを社会のセーフティネットとすることにより多くの人々が幸福感を持てる社会を実現しようという藻谷浩介氏の「里山資本主義」という活動がすでに各地で実践されています。これらの活動を見ると今私たちの前にある二つの課題
・ポスト資本主義の提案・実現
・地球温暖化問題
は、例えば「原子力発電vs. 再生可能エネルギー」といったような、対立構造で捉えるのではなく、両方に同時に、そして柔軟な柳の木が降り注ぎ続ける雪の中にあっても折れることが無いが如く「しなやかに対応」していくことが可能なのではないか、という希望を感じさせてくれます。
さて私は最近まで、縄文時代というのは、狩猟採集を基盤とし竪穴式住居に住み縄文式土器を使う原始的会、といった程度の貧弱な認識しか持っていなかったのです(お恥ずかしいことです)が、清水先生の取り組みに影響されて少し調べたところ、近年その研究が急速に進んでおり例えば次のような特徴を持つことを知ることができました。(なお、一口に縄文時代と言ってもその時期により大きな違いがある為、以下の記述は非常に杜撰なものであることはご注意ください。)
・今から約1万6500年前から始まり3000年前〜2400年前まで(135世紀以上!)続いた世界的にも稀な長期文明である
・他の地域の多くの狩猟採集民とは異なり定住をしていた。それらの定住地の間ではかなりの広範囲で物々交換による交易が行われていた。また本格的な農業は行われていなかったものの食用の植物を植林していた形跡がある。
・居住地に環状列石といった構造物あった他、燃え盛る焔(ほのお)を模したと思われる火焔型土器といった、高い精神性に基づくと思われる遺物が数多く見つかっている。
その他挙げればきりがないのですがかつてこのような高い持続可能性を有した社会が実際に存在したことは驚きを禁じ得ませんでした。
ところで最初にご紹介した清水先生のしごと学習で先生は「学校の中でできる限り縄文人の生活をやってみよう」という課題を提起されただけで、特定のゴールは設定しなかった、とのことでした。私はこのような「フワッとした」目的に向かわせる実践は子供たちがこれからの人生で直面していくであろう、ポスト資本主義のような課題に対して「しなやかに解決する力」につながると感じました。このような学習のできる本校には素晴らしいポテンシャルがあると信じています。