2022年3月2日水曜日

数の話:カウンティング2:共感覚

最近脳の研究が注目を集めています。そこでまず人の脳の構造について簡単に説明しておきましょう。人の脳は大きく分けて大脳、間脳、中脳、小脳、延髄、脊髄に分かれます。この中でも大脳は人間が考え、感じ、記憶するなどの機能をもつ重要な器官です。大脳は表面から灰色をした大脳皮質、その内側にある白い色をした白質、そして中心部で間脳を囲むように位置している大脳基底核からなります。大脳皮質にはニューロン神経細胞)がびっしりと詰まっています。これらのニューロンからは樹状突起が伸びており他のニューロンから送られる信号をここで受け取ります。ニューロンは細胞体から一本だけ細く長く伸びる「軸索」をもっておりこれが他のニューロンに信号を送ります。あるニューロンの軸索から別のニューロンの樹状突起へはシナプスと呼ばれる特殊な接点で情報が受け渡されます。

なお、前のポストでカウンティングにより数を認識できるようになるのが4歳くらいと述べましたが、これは脳の発達過程に対応させると次のような関係になります。赤ちゃんの出生後の脳の重さは、約400グラムですが一歳で800グラムになり、4ー5歳頃には1200グラム(大人の約80%前後)になります。ただしこの過程でもニューロンは増加することはなく、変化は樹状突起や軸索が伸びて大きくなったりグリア細胞と呼ばれる大脳の内部にある細胞が増えることによるものです。シナプスの密度は部位によって違いはあるものの脳の多くの部位で1ー3歳に前後にピークをむかえます。例えば「視覚野」では生後8−9ヶ月ころにピークを迎えた後、数年かけて3分の2程度にまで減少します。このシナプスが減っていく現象は「刈り取り」と呼ばれています。脳はとりあえず、繋がれるところは目一杯に繋げておいてそれを刈り取ることによって赤ちゃんは新しい能力を身につけていくのです。


普通私たちは「脳が新しい能力を獲得する」というとニューロンの「新しい繋がりができる」、と考えがちですが、幼児の脳の中で実際に起きていることはその逆で脳はニューロンの「刈り取り」によって新しい能力を身につけるのです。例えば次のようなことが知られています。まだ刈り取りが行われていない幼児では全ての指のコントロールが繋がっているために、一本一本の指を動かすことはできず、ものを掴むときはグーかパーのどちらかになっています。やがて刈り取りが進むと一本一本の指の動きが独立してできるようになります(「Newton脳とニューロン」154頁)。


ただ、時にはこの”刈り取り”が多くの人とは違った形で行われ、その結果ある感覚刺激(目で色を感じる、耳で音を聞く等)に対してその感覚だけではなく違う感覚も同時に感じ取れるという人がいます。このような感覚を共感覚と言います。ダニエル・タメットはそのような共感覚の持ち主の一人で彼の場合、文字や数字に形や色、質感、動きなどが伴って見えるとのことで、1は明るく輝く白、5は雷の音、・・・と感じるそうです(「ぼくには数字が風景に見える」13頁。そして共感覚は彼に数字に対する独特な感覚を与えたようで、彼は


幼いころから共感覚を使って無意識のうちに、膨大な数字を操ったり計算したりしていた(同書14頁)、


と述べています。タメットこの能力を使って2004年に円周率πを2万2514桁暗唱(ただし途中でミスのあったことが後に判明)しています。


参考文献

・Newton脳とニューロン

・ダニエル・タメット、ぼくには数字が風景に見える