2013年8月25日日曜日

ポアンカレ予想前夜(6)

いま突然三次元空間という言葉がでてきましたがこれについて確認
しておきましょう.さきほどその各点の近くが2次元的な広がりを持
つ空間のことを2次元空間または曲面と呼んでいましたが,同様に各
点の近くが3次元的な広がりを持つ空間のことを三次元空間,または
三次元多様体と呼ぶことにします.(三次元多様体というのは本来は
もっと色々技術的な条件がつくのですがここではそのような細かい条
件にはこだわらないことにします.)

さて最も簡単な三次元多様体として三次元球面と呼ばれる空間をあげ
ることができます.これはこのような球面の三次元版とでも呼ぶべきも
のです.三次元球面を一度に思い浮かべることは難しいのですが次のよ
うに考えると分かりやすいでしょう.まず三次元球面を思い浮かべる
ための予行として二次元球面について考えることにしましょう.二次
元の球面はこのように北半球と南半球の2つの部分に分けることがで
きます.このそれぞれの半球はゴムのような柔らかい材質でできてい
ると考えるとこのように平面に押し付けることができます.つまり球
面というのはこのような円板を二つ持ってきてそのふちを貼りあわせ
ることによってできます.ところでいまふちを「貼りあわせる」と言
いましたが,先ほどのトーラスのときと同じように,これはそれぞれ
の円板の縁の対応する点が「つながっている」と考えれば見やすいで
しょう.この事実を参考に三次元球面を連想してみましょう.まずこの
円板に対応する対象物としてボールを考えます.そしてこのようなボー
ルを二つ持ってきてこれらの表面を貼り合わせるつまりこれらの表面
の対応する点がつながっていると考えることにより得られる三次元多
様体が三次元球面なのです.

さて三次元球面以外にどのような三次元多様体が存在するでしょうか.
例えば先ほどのトーラスの構成法を三次元に拡張することを考えてみ
ましょう.この場合正方形の代わりにこのような立方体を考えること
になります.この立法体の相対する辺をつなげてやることにより三次
元多様体が得られます.このような三次元多様体は三次元トーラスと
呼ばれています.

ポアンカレはこのような与えられた三次元多様体が,異なるものであ
るかどうかをどうやって示すのか,と言う問題を取り扱っています.
第2の論文の中でホモロジー群と呼ばれる概念を導入してそのような
問題に対する答えを与えています.例えばこのホモロジー群を使うと
三次元球面と三次元トーラスは異なる三次元多様体であることを示す
ことができます.では逆に2つの三次元多様体が与えられたときにそ
のホモロジー群が等しければ,その多様体は同じなのか,という問題
が考えられますが,これに関してはポアンカレは2番目の補遺で「ホ
モロジー群が三次元球面と同じであればその多様体は三次元球面であ
る」と主張しました.しかしながら彼自身がこれが間違いであること
に気がつき五番目の補遺の中で実際にホモロジー群が三次元球面と同
じ三次元多様体で三次元球面と異なるものを構成しています.そこでこ
の論文の最後でポアンカレは次のような疑問(問題)を提出しました.

問題
いま三次元多様体 M に対して、その中の任意の閉曲線が連続的に一
点に縮むとする。この時 M は三次元球面に同相になるか。

これがいわゆる、ポアンカレ予想と呼ばれる問題です。