2013年8月9日金曜日

ポアンカレ予想前夜(5)

ではこの種数2の曲面ではどうでしょうか?クラインとポアンカレが扱った
問題の本質はまさしくこの疑問に関係しています.彼らの仕事の基本となる
哲学を一言で言うならばこのような種数2の曲面(そして種数3以上のすべて
の曲面)の上にも,その上のすべての点の近くが同じように見える見方が存在
するということです.ただしこの近くの様子は球面のものとも,トーラスの
ものとも異なります.現代的な言葉では球面の上に入るきれいな形は「球面
的(spherical)」と呼ばれ,トーラスの上に入るきれいな形は「ユークリッド
的(Euclidean)」または「平坦(flat)」とよばれています.これにたいして
種数が2以上の曲面にはいるきれいな形は「双曲的」と呼ばれていて,この
ような馬の鞍のような形をしています.

さて今御紹介したのはポアンカレのごく若い頃の仕事ですが,彼はその後,
数学、物理学および哲学の多くの面によって先進的な貢献をしました.この
ように様々な分野で貢献できる科学者は現在では生まれることは無いだろう
という意見もあり,彼はのことを「最後の万能数学者」と呼ぶ人もいます.
さてこのような彼の多方面にわたる貢献の1つに位相幾何学に関するものが
あります.彼は1895年「Analysis situs (位置解析)」と題する論文を
発表します.この121ページに及ぶこの長大な論文の中でポアンカレは
現代的な位相幾何学(トポロジー)の基礎となる「同相写像」「ホモロジー
群」「基本群」「ベッチ数」等の様々な概念を導入しています.さらに
ポアンカレはこの論文を補う形で位置解析に関する5編の論文「補遺
(1899年),第2の補遺(1900),第3の補遺(1902),第4の補遺
(1902),第5の補遺(1904)」を発表しています.さてこの第2の
補遺の中でポアンカレは「ねじれ係数」と呼ばれる量を導入して三次元
空間の研究に応用しています.