本日は、多数のご来賓や保護者の皆様方をお迎えし、平成24年度
第〇〇回卒業証書授与式を挙行できますことは、生徒、職員一同に
とりましてまことにありがたく大きな喜びとするところであります。
ご臨席の皆様方に、心から感謝申し上げます。
ただいま、卒業生119名に卒業証書を授与いたしました。
ご卒業、誠におめでとうございます。卒業生の皆さんは、明日か
ら新しい生活への希望を胸に、それぞれの進路へと旅立ちます。
この門出に当たり、皆さんの未来に幸多からんことを心からお祈
りいたします。また、この間、お子様を育み、支えてこられた保
護者の皆様方には、改めてお喜び申し上げます。
卒業生の皆さんは本校の「自由・自主・自立」の精神を受け継ぎ
学習や部活動、学校行事などに 熱心に取り組み、知力と体力を育
んできました。これから皆さんは、それぞれの新しい進路でご活
躍されることと確信しています。この皆さんの門出に当たり私か
ら一言、言葉をお送りしたいと思います。
今日は、まず皆さんに、数学者はどのようにして問題を解くのか、
ということについてお話したいと思います。さて科学分野の最高
の賞はノーベル賞ですが、数学ではこれに対応する賞としてフィ
ールズ賞と呼ばれる賞があり、日本人ではこれまで3人の受賞者が
います。この中の一人である、広中平祐先生は代数多様体の特異
点解消と呼ばれる業績で1970年にフィールズ賞を受賞されてい
ます。ところで、この問題がまだ解けていない1963年に日本数学
会で講演することになった先生は、自分が全力で取り組んでいる
この問題をそのテーマに選ばれました。もちろんまだ完成して
いない研究ですから、途中経過を紹介するほかはありません。
そこで講演では、問題の設定に色々と条件をつけて、対象を絞った
上で、この場合にはこんな結果がでるから、本来の特異点解消には
きっと役立つだろう、という話をされたそうです。
ところで当時奈良女子大学におられた数学者、岡潔先生は広中先生
の講演終了後真っ先に立ち上がって次のように言われたそうです。
「広中さん、そんな態度では、問題は解けません。問題というのは
具体的な形から、どんどん抽象化していて行って、最終的に理想的
な形にすべきです。理想的な形になれば問題は自然に解けます。」
広中先生はその時は、この研究の専門家である自分に対するアドバ
イスに、あまりよい感情を持っておられませんでしたが、その後、
岡先生の言葉に従って問題を理想的な形にしたところ、最終的な
解決をすることができたということです。
さて話は変わりますが昨年3月に文部科学省中央教育審議会は
「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成
する大学へ」
というまとめを公開しました。この中では
(高度成長社会では均質な人材の供給を求めた)産業界や地域が今
求めているのは、生涯学ぶ習慣や主体的に考える力を持ち、予測困難
な時代の中で、どんな状況にも対応できる多様な人材である。
さて私は数学の教育・研究をして生活をしています。私の人世経験の
中でも数学のあり方については様々な変化がありました。私が大学に
入学したのは1977年のことですが、その頃の物理や数学の教授という
のは一種独特のエリート意識と言いますか、特別な感情を持った人が
たくさんいて、「学問というのは命がけでやるものである」「生活の
中でその学問以外のことを考えるようではいけない」というようなこと
をいう人が少なからずいました。実際当時はわたしもそのような考えに
染まっていました。それが今や、「大学で学んだ知識だけで一生暮らし
ていく時代ではないのですよ、大学で学ぶべき大切なことは、今まで
見たことの無いような問題にちゃんと対応できるような力を身につける
ことですよ」ということを、文部科学省が率先して公言する時代になっ
たのです。数学の世界でも、私が大学で学んだ数学観と現在のものは
その学問を通して何を獲得するのか、期待されることが変わっている、
といいますか、変わるべきであると思います。
ただ私は天邪鬼な人間でそういうことを言われると「では、数学を通
して学ぶことで、どんな時代にあっても変わらないものは何か」という
事を考えてしまいます。そこではじめの広中先生の特異点解消の問題に
戻るのですが、問題に当たるときに「問題を理想的な形にする」という
のは、数学に限らない、多くの困難に出会った時に我々がとるべき態度
ではないでしょうか。
さて皆さんは本日本校を卒業されます。これからは、みなさんは、徐々
にですが、自分たちの考えに基づいて判断して自分で自分自身の人生を
切り開いて行かなければならないのです。さて今日私が皆さんにお送り
したいメッセージは、
「困難に取り組むにあたってはその問題点を理想的な形にしなさい」
ということです。そしてもう一つ皆さんに心に刻んでおいていただき
たいことは、いま我々は、これまで人類が経験したことのない新しい
パラダイムを構築しようとしている、そしてその担い手は皆さんで
あるということです。
そう、今学問を始めとして、日本の社会は大きなパラダイムの変換を
迎えつつありそのためには多くの課題を乗り越えていかなければなり
ません。東日本大震災からの復興もそのような課題のひとつといえる
でしょう。そしてこれは誰も答えを知らない困難であり、皆さんはそ
の中で自分が果たすべき役割を見つけなければいけない立場にあるの
です。私は皆さんの才能に恐れにもにた尊敬と大きな期待を持ってい
ます。ここ附属でみにつけた精神をもって皆さんはこの新しいパラダ
イム構築の担い手になってくださることを期待しています。どうか皆
さんの未来が実り多いものになりますことを願って私からの送別の
あいさつを終わらせて頂きます。