セミナーでの雑談中にイスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの著書「ホモ・デウス」のことを学生に教わったので早速,購入して読んでみました.
現在のテクノロジーの発達は人類をどんな世界に連れて行こうとしているのか,壮大なスケールで描くこの本の魅力にとりつかれましたが,何しろ大部の本なのでその全貌を捉えることができずストレスを感じていたのですが,この内容をスライド59ページにまとめてくださった人がいます.
現在のテクノロジーの発達は人類をどんな世界に連れて行こうとしているのか,壮大なスケールで描くこの本の魅力にとりつかれましたが,何しろ大部の本なのでその全貌を捉えることができずストレスを感じていたのですが,この内容をスライド59ページにまとめてくださった人がいます.
「ホモデウス図解,要約してみた」 by nogacchi
このスライドのおかげで漸くこの本の全体像が(ぼんやりと)見えてきました.そうすると今度は本の中の話の流れを自分流に書き直し.更にその内容について人に話したい,という気持ちがおきてきました.
先日理学部の学生向けのオムニバスの講義で,「機械学習」について話をする機会があったのですが,これ幸いとこの講義時間の一部を使って,データサイエンスの意義を説明するために,上記のまとめを利用しながら私流のホモ・デウスの解釈を述べてみました.
今回はそのこの内容について紹介したいと思います.
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まず,ホモ・デウスにおける(皆さんがいま学んでいる)サイエンス(自然科学)の位置づけについて確認しておきます.そのために人間をプロセッサーとして見たときの人類の能力の変遷についてどのように理解できるのか紹介します。
人間を一人ひとりではなく,集団としての人間の機能(プロセッサーに例えることにする)がどう拡大してきたのか,という観点から歴史を見直してみると,次のような流れになるでしょう:
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1.認知革命(プロセッサーの数が増えた)
人類はいまか7万年くらい前に,実際には存在しないものを頭の中に想像しそれを他人と,共有できるようになった(認知革命).
これによっ人類は想像の中にしか存在しないものについて語り,それを他人と共有できるようになった.これによって共同主観的ネットワークが形成されるようになる.
2.農業革命(高度な局地的プロセッサーの誕生)
約1万2000年前に農業革命が起こる.人類は農作を始めそれまでの常に移動する狩猟生活から定住生活に移行した.農耕によりそれまでより大きな村が形成されるようになった.共同主観的ネットワークは拡大して,様々な神々の物語に発展し宗教が生まれた.
3.書字と貨幣(プロセッサー間の接続が増えた)
約5000年前に書字と貨幣が発明された(シュメール人)事により巨大な王国が成立した.共同主観的事実(宗教など)が生活の重要な規範となった.
4.科学革命(サイエンスによる飛躍的発達,世界的ネットワークの構築)
やがて(約500年前の)科学革命とともに異なる都市や王国の間の結びつきが強まり,それは21世紀現在の世界を巡るネットワークに繋がっていく.ところでその一方で科学は人間から神を奪い去ってしまった.今や宗教は人間の進むべき道を与える大きな力にはなってくれない.そして宗教に代わって人間至上主義が人類の行動に対する指針の基準となっている.
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人類の現状は経済成長と生態系の保護という2つのレースを同時にこなしているようなものです.これまでは科学技術の絶え間ない進歩により人類はこのレースをここまで駆け抜けることができてきました.しかし現在,人々はこのようレースを続けることにストレスを感じています.
ところで現在人類の生活レベルはこれまで我々を苦しめてきた飢餓,伝染病,戦争という3つの厄災をほとんど克服した,といっていいところまで向上しています.「人間至上主義は実現された」といってもいいでしょう.そして今や科学技術(特に生命科学の発展)は「不老・不死の実現」といった神のレベルまで人間をアップデートしようとしているのです.(ホモ・デウスというのはこのような神の特性を持った人間のことです.)
しかしながら現代の人々の幸福度は必ずしも高くなく特に先進国ほど自殺率が高いなど経済成長は幸福感につながらないことが分かっています.実際に人間は「幸福感を持ち続けることができない」という特性によってこれまで生き残ることができたのですからこれはある意味自然なことです.
ところで最近の脳科学の研究は,人間が「意識」を持っている(人間至上主義の根拠となる信念)という主張に対して疑問を投げかけています.実際
「人間の様々な価値観の基本になるのは虚構の物語に過ぎないのではないか.虚構の価値観を目的化してはならない」
という考えに基づいて人類の未来について考察するのは意味のあることのように思えます.では
「意識というものは存在しない」
として,
「生命とは外的な刺激にどのように対応するかという手順を定めたアルゴリズムに過ぎない」,
という仮定を採用してみましょう.そうするとむしろこのような仮定に基づいて行動をコントロールするほうが好結果を生むことが様々な実験によって確かめられています.そう遠くない未来に多くの職業はアルゴリズム(AI)に取って代わられ,人類の大半は経済的価値を失う可能性が少なくないのです.
「人間の様々な価値観の基本になるのは虚構の物語に過ぎないのではないか.虚構の価値観を目的化してはならない」
という考えに基づいて人類の未来について考察するのは意味のあることのように思えます.では
「意識というものは存在しない」
として,
「生命とは外的な刺激にどのように対応するかという手順を定めたアルゴリズムに過ぎない」,
という仮定を採用してみましょう.そうするとむしろこのような仮定に基づいて行動をコントロールするほうが好結果を生むことが様々な実験によって確かめられています.そう遠くない未来に多くの職業はアルゴリズム(AI)に取って代わられ,人類の大半は経済的価値を失う可能性が少なくないのです.
つまり,ホモ・デウスを目指す,ということは人間至上主義の崩壊につながると言えるでしょう.
このような進歩の行き着く先として次のような未来を描くことができるでしょう:
自由主義は崩壊して社会はごく一部のホモ・デウスのみがアップデートされ続け,大部分の人間はアップデートされることもなく,データ至上主義という新しい宗教に基づくアルゴリズムによって支配されるだけである.(ハラリはこのような社会構造を「新しいカースト制度」と呼んでいます.)
このような未来が本当に来るのかどうか,それは皆さんのような若い世代にかかっているのだと思います.そしてそこで来るべき社会に本質的な影響を与えるためにはデータサイエンスに対する正しい理解を持つことが必要であると考えます.どのような未来であれデータ至上主義がこれからの社会を支える最も重要なパラダイムになることは間違い無いからです.